定款に「理事長が委嘱する」と記載する意義。

closeThis post was published 6 年 5 ヶ月 27 日 ago which may make its actuality or expire date not be valid anymore. This site is not responsible for any misunderstanding.

私は、今、社会福祉法人に勤めている。私が担当する範囲は主として法務であるが、今までの法人制度が緩かったからか、どうも十分な情報が少ないように思う。

そのようなことで、社会福祉法人の運営に関する法務について、浅学ながら書き連ねようと思い立った。


さて、社会福祉法人が定める定款について、これまで厚生労働省が示してきた定款準則にあって定款例では削られた文言で、「理事長が委嘱する」というものがある。*01

理事は、理事総数の三分の二以上の同意を得て、理事長が委嘱する。

評議員は、社会福祉事業に関心を持ち、又は学識経験ある者で、この法人の趣旨に賛成して協力する者の中から理事会の同意を経て、理事長がこれを委嘱する。

この文言は、評議員や理事が法人と委任契約の関係にあることを明確にするため、あえて挿入されたものであると考えられる。*02

委任契約であることについては、最高裁判所が平成18年にある事件で考えを示しているが、実のところ改正前の社会福祉法には評議員や理事と法人との関係について規定するものがなかった。

社会福祉法人と理事との関係は、基本的には、民法の委任に関する規定に従うものと解される

(委任)
第643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

改正後の社会福祉法では次のような規定が設けられ、また、指導監査ガイドライン*03においても法の規定があるから委嘱状による委嘱は不要と示している。

(社会福祉法人と評議員等との関係)
第38条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

法人と評議員との関係は、委任に関する規定に従う(法第38条)。そのため、定款の規定に基づき評議員として選任された者が就任を承諾することで、その時点(承諾のときに評議員の任期が開始していない場合は任期の開始時)から評議員となるものである〜評議員の選任の手続において、選任された者に対する委嘱状による委嘱が必要とされるものではない

これらを踏まえれば、先に述べたように、委任の関係であることを明示するための一工夫であったといえる。
となると、法令上の職ではない名誉会長や顧問といったものを法人に設置する場合には、定款に「理事長が委嘱する」と記載しなければならないだろう。

  1. 定款準則及び定款例は、いずれも「社会福祉法人の認可について」(平成12年 12月1日付厚生省大臣官房障害保健福祉部長、社会・援護局長、老人保健福祉局長、児 童家庭局長連名通知の別紙2であるが、定款準則は平成27年8月5日改正まで、定款例は平成28年11月11日以降。 []
  2. 監事について、定款準則では「理事会において選任する」となっていたが、これは「選任」という言葉には委任や委嘱の意味がそもそも含まれているからであろう。 []
  3. 社会福祉法人指導監査実施要綱の別紙 []
amatanoyo
Sekai Amataです。漢字では数多世界となります。あまたのよと名乗ることもあります。